日本のホラー

日本のホラーは海外ものとは一線を画す独特な世界観をもっていて、ジャパニーズホラーなどと呼ばれ海外のホラーファンの間でも高い評価を得ています。

日本式ホラーの歴史

元々日本映画においては「怪談ものホラー」の伝統はあったものの、これらは総じて怨恨を理由とした復習譚でした。表現手法にホラー的な要素はあったものの、因果応報思想の影響が根強いため理不尽なストーリーは少なく、起承転結がはっきりし、勧善懲悪思想に基づくハッピーエンドで終わるものが大半でした。しかし1980年代後半より制作され始めた日本製のホラー映画は、ハリウッド製ホラー映画に対するのと同様に、このような日本の怪談・怪奇映画の伝統とも距離を置いており、ジャパニーズホラー、またはJホラーと呼称されて独自のカテゴリーを形成しています。日本式ホラー流行に至る起点は、オリジナルビデオとして製作・公開された「ほんとうにあった怖い話」シリーズ(1991年~1992年)です。これは、読者からの投稿を基にした「実話」を映像化したオムニバス作品であり、中でも小中千昭脚本・鶴田法男監督の諸作品は、日本式ホラーの原点として参照・言及されることが多いです。これらの作品で提示された「本当に怖いものを見たとき、人間は即座に悲鳴を上げられない」「ありえない場所に人の姿が映されている恐ろしさ」などの演出は日本式ホラーの特質の一つです。このオムニバス作品を皮切りに、日本式ホラーの立役者とも言うべき人々の作品が製作され、日本式ホラーブームは次第に盛り上がりを見せます。この動向を決定づけたのは清水崇監督の「呪怨」(2000年)と三池崇史監督の「オーディション」(2000年)でした。「呪怨」は元はオリジナルビデオとして製作された作品でしたが、口コミでその怖さが広まり、レンタルするのが困難になるほどの話題を呼びました。この評判を背景に、35mmフィルム作品としてリメイクされ、続編として製作された劇場版の「呪怨」(2003年)も大ヒットしました。遂には監督自身によるハリウッド版のリメイク「呪怨(THE GRUDGE)」が2004年に公開され、全米週間興業収益第1位を勝ち取るまでに至りました。また、同じく日本で大ヒットした「リング」「リング2」もハリウッドでリメイクされ、「呪怨」同様に全米週間興業収益第1位を獲得しました。2005年にはオムニバス・ドラマ「マスターズ・オブ・ホラー」のファースト・シーズンに三池崇史が、セカンド・シーズンには鶴田法男がそれぞれ参加し、名実ともに日本のホラー映画は確固たる地位を築きました。

ジャパニーズホラーの特徴

2000年頃から、日本のホラー映画及び日本以外の国でのリメイク作品は全世界的に好評を博していますが、それはハリウッド作品などとは異なる独自のホラー映画の文法を持っているからだと言われています。一口に日本式ホラーと言っても作品や作家・監督によって細部は異なりますが、おおよそ下記のような特徴・手法が見られます。

独特の「間」

日本式ホラーでは「怖い」と感じさせる場面ではあえて沈黙を長くとり、登場人物が絶叫するシーンは必要最低限になっています。この沈黙のために、急な効果音(扉の閉まる音、水滴の音など)を挿入することで観客を驚かすことが出来ます。

水を使ったシーンが多く使われます。雨の音や、水道の蛇口から滴り落ちる雫の音などがその代表ですが、その他にも床に残る濡れた足跡や風呂場でのシーンが効果的に使われています。

幽霊のデザイン

恐怖の対象となるクリーチャーのデザインは、海外のようなグロテスクなものではなく、女性や手だけのものが多くなっています。特に「白い服に長い黒髪を垂らした女性の幽霊」は日本式ホラーの代名詞として親しまれています。この外見上の特徴は米国においても浸透・普遍化しており、これをそのまま使うと一種のギャグとして捉えられることがあります。

日常の道具

日常生活に欠かせない、身近なものを利用する頻度が高いのも特徴の一つです。突然鳴り響く電話のベルや、鏡に映る異形のもの、テレビの砂嵐、古い家などを効果的に使うことにより、観客に「映画のような怖いことが、自分の身にも起るかも知れない」という恐怖を与えます。

残虐なシーンが無い

ジャパニーズホラーは残虐なシーンを避ける傾向にあり、電車に轢かれたり、投身自殺するシーンなどであっても、直接的な描写はされないことが多く、それによって観客自身の想像力を喚起させるつくりとなっています。

舞台の規模

一つの町や、一つの家を舞台にすることが多く、ハリウッドホラーのように全世界にまで恐怖が広がるというようなことがありません。

身近な人

これといって何の特徴も特殊な生活習慣や嗜好も無かったごく普通の人物であっても、死の間際に深い遺恨・恨みを抱いていたことで凶悪・強力な悪霊となってしまうという恐怖を与える作りになっています。

ブームの陰りとリメイク

日本式ホラーのブームに乗り、こうしたジャパニーズホラーは少なからぬ本数が製作・公開され続けています。しかし粗製濫造やこれに伴うブームの終焉を指摘する声も上がっています。例えば、「呪怨(THE GRUDE)」の独自続編として製作された「呪怨 パンデミック」では、日本版「魔女伝説」のような作品設定をシリーズ共通の悪霊「佐伯伽椰子」の生前出自に持ち込んでいて、さらには国境を越えて全世界的に祟り・霊障をもたらす展開など、オリジナル作の持ち味を無視・無理解しているかのような改悪アレンジが加えられてしまい、今後の展開に不安を残しています。

スプラッター系映画

オススメジャパニーズホラー

1998年「リング」

ジャパニーズホラーブームの火付け役となった作品です。鈴木光司の同名小説を中田秀夫監督が映画化しました。見たものを1週間後に呪い殺す「呪いのビデオ」の謎を追っていくというストーリーで、井戸から這い上がる貞子の映像や「くーるーきっとくるー」でおなじみの主題歌が話題になりました。全編に渡って観客に異様な緊張感と恐怖を与えてくれるこの作品は、やはりジャパニーズホラーの代表作といえるでしょう。見た後はテレビの砂嵐と貞子の姿を思い出し、夜も眠れなくなること間違いなしです。

2000年「オーディション」

村上龍の同名小説を三池崇史監督が映画化したサイコホラー映画です。映画のオーディションにやってきた女性の中から再婚相手を探そうとする中年男性が体験する恐怖を描いています。非常に「痛い」映画で、2000年のロッテルダム国際映画祭の上映では記録的な人数の途中退出者を出し、観客の女性が三池に「悪魔!」と激怒して詰め寄ったという一幕がありました。また、2001年にアイルランドのダブリンでアイルランド映画協会会員限定で無修正版が上映された際には、会員の何人かがショックで倒れるなどし話題となりました。「音」が恐怖心をかき立てる映画ですので、お家で見る場合は良いヘッドフォンなどをしてみてください。

2004年「着信アリ」

秋元康原作の小説を映画化した作品です。シリーズ三作に加え、ハリウッドでもリメイクされていますが、2004年のシリーズ一作目が一番オススメです。死の予告電話がかかってきた人物がその予告通りに死を遂げるというストーリーです。今や生活必需品となった携帯電話がモチーフになっており、見終わったあとは自分の携帯電話にかかってくる電話にもビクビクしてしまうこと請け合いです。

2007年「おろち」

楳図かずおの恐怖漫画を映画化した作品です。監督は鶴田法男が務めました。29歳の誕生日を迎えると醜くなっていくという血筋の家に生まれた美人姉妹による、女心の恐ろしさと執念を描いています。「おろち」自体は不老不死で不思議な力が使えるという妖怪のような存在ですが、恐怖の対象はおろちではなく人間で、そのうちに秘めたどす黒い感情や醜い心が非常に怖い作品です。この作品を見ると、本当に怖いのは幽霊でも化け物でもなく「人間」なんだなと思わされます。

ゾクゾクしながら映画を観よう!